大相撲を見ていると、力士のきれいに整えられた髷(まげ)が目に入りますよね。
「この髷は力士が自分で結っているの?」「毎日誰が整えているんだろう?」と、気になったことがある方もいるのではないでしょうか。
力士の髪を結い、髷を整えている専門職が「床山(とこやま)」です。
床山は、大相撲を裏側から支える職人のひとり。
普段の髷はもちろん、関取が本場所などで結う華やかな「大銀杏(おおいちょう)」も、床山の技術によって美しく仕上げられています。
さらに床山には五等から特等までの格付があり、髷を結うときには「すき油」や「元結(もっとい)」、櫛など、普段の生活ではあまりなじみのない道具も使われます。
この記事では、床山とはどのような仕事なのか、仕事内容や格付、使う道具、床山になるまでの流れについて、相撲初心者の方にもわかりやすく紹介します。
大相撲を見るときの新しい楽しみ方にもつながりますので、ぜひ力士の髷を思い浮かべながら読んでみてください。
床山とは力士の髪を結う専門職

床山とは、力士の髪を結い、髷を整える専門職です。
大相撲には土俵に上がる力士だけでなく、行司や呼出、床山など、さまざまな役割を担う人たちがいます。
そのなかで力士の髪を専門に扱うのが床山です。
テレビ中継では完成した髷を見ることがほとんどなので、その裏側を意識する機会は少ないかもしれません。
しかし、力士の髷は自然にあの形になるわけではありません。
髪を丁寧に梳(す)き、油をなじませ、形を整えて結い上げる床山の仕事があって、私たちがよく知る力士らしい姿になります。
大相撲の伝統的な姿を陰で支えている、大切な職人といえるでしょう。
床山は相撲部屋に配属される裏方
床山は日本相撲協会に所属する職人で、それぞれ相撲部屋に配属されて仕事をします。
基本的には配属された部屋の力士を中心に髷を結いますが、大相撲では多くの力士の髷を整える必要があり、床山同士が協力しながら仕事をする場面もあります。
大相撲というと、どうしても力士や取組に注目しがちです。
けれども、力士が整った姿で土俵に上がるまでには、たくさんの人がそれぞれの仕事をしています。
床山もそのひとりです。
力士が整った髷で人前に出られるよう支えることはもちろん、昔から受け継がれてきた大相撲ならではの髷の文化を守っていく役割も担っています。
こうした髷の文化が現在まで受け継がれている背景については、力士が髷を結う理由や髷の歴史を解説した記事で詳しく紹介しています。
力士の髷を整える大切な役割がある
力士は髪が伸びてくると髷を結うようになります。
ただし、自分の後頭部にある髪を見ながら、本格的な髷をきれいに仕上げるのは簡単ではありません。
そこで床山が、髪を梳き、油をなじませ、髪をまとめて形を整えていきます。
一見すると、どの力士の髷も同じように見えるかもしれません。
実際には髪の長さや量、太さ、髪質などは一人ひとり違います。
髪が十分に伸びている力士もいれば、入門して間もないなどの理由で、まだ髷を結えるほど髪が伸びていない力士もいます。
そうした違いを見ながら、その人の髪に合わせて形を作ることも床山の技術のひとつです。
単に「髪を結ぶ人」というより、力士ごとの髪の状態を見ながら伝統的な髷を仕上げる職人と考えると、床山の仕事をイメージしやすいでしょう。
床山の仕事内容は?
床山の代表的な仕事は、力士の髷を結うことです。
言葉にするとシンプルですが、決められた形に髪をまとめれば終わり、という仕事ではありません。
力士によって髪の状態は異なり、普段の髷と大銀杏でも仕上げ方が変わります。
さらに、大勢の力士がいるなかで仕事をするため、美しさだけではなく手際のよさも求められます。
長い経験によって身につけていく職人技が必要な仕事なのです。
稽古や取組に合わせて髷を結う
床山は、力士の生活や本場所、巡業などに合わせて髷を整えます。
相撲部屋には複数の力士が所属しているため、一人の髪だけを担当していればよいわけではありません。
特に多くの力士を整える必要がある場面では、限られた時間のなかで次々と髷を仕上げていくことになります。
丁寧に髪を扱いながら、手際よく美しい形に仕上げる。
この両方をこなすことが、床山に求められる技術のひとつです。
また、力士の髪に日常的に触れるからこそ、髪の長さや状態の変化を見ながら結い方を調整できます。
一人ひとり異なる髪に合わせて形を整えることも、経験を積んだ床山だからこそできる仕事といえるでしょう。
ちょんまげと大銀杏では結い方が変わる
力士の髷というと、扇のように大きく広がった形を想像する方もいるかもしれません。
この特徴的な髷が「大銀杏(おおいちょう)」です。
大銀杏は、髷の先端を銀杏の葉のような形に整えたものです。
その特徴的な形を作るためには、床山の経験と技術が求められます。
現在の大相撲では、十両以上の関取が本場所の取組などで大銀杏を結います。
一方、幕下以下の力士は基本的にちょんまげですが、十両との取組、初切や弓取式への出演、引退時の断髪式など、特定の場面で大銀杏を結うことがあります。
違いを簡単に整理すると、次のようになります。
| 比較するポイント普段の髷(ちょんまげ)大銀杏 | ||
|---|---|---|
| 見た目 | 髪をまとめた比較的シンプルな形 | 髷の先を銀杏の葉のように整える |
| 主に結う力士 | 幕下以下を含む力士 | 主に十両以上の関取 |
| 主な場面 | 稽古や日常など | 本場所の取組や公的な場など |
| 床山に求められる技術 | 専門的な結髪技術 | 経験を重ねた高度な結髪技術 |
なお、髪の長さが足りない場合など、入門して間もない時期には髷を結えないこともあります。
大相撲を見始めたばかりなら、「すべての力士が最初から大銀杏を結っているわけではない」と覚えておくとわかりやすいでしょう。
また、関取でも稽古や日常では、基本的にちょんまげで過ごします。
テレビ中継を見るときにも、ぜひ髷の形に注目してみてください。
「この力士は大銀杏だ」と気づけるようになると、大相撲を見る楽しみがひとつ増えます。
髷の形や結う力士、場面による違いを詳しく知りたい方は、大銀杏とちょんまげの違いもあわせてご覧ください。
力士の髪の状態に合わせて整える
人によって髪質が違うのは、力士も同じです。
髪が太い人もいれば細い人もいますし、毛量や長さにも違いがあります。
そのため床山は、誰に対してもまったく同じやり方で髷を結えばよいわけではありません。
髪の特徴やその日の状態を見ながら、その力士に合わせて形を整えていきます。
特に大銀杏では、正面だけではなく横や後ろから見たときの形も大切です。
髷の先をどのように整えるか、全体のバランスをどう仕上げるかといった細かな部分にも経験が生かされます。
完成した髷だけを見るとシンプルに感じるかもしれませんが、その形には床山が積み重ねてきた経験と技術が詰まっています。
床山にも格付がある?

力士に番付があることはよく知られていますが、床山にも格付があります。
床山の格付は、下から順に次のようになっています。
五等 → 四等 → 三等 → 二等 → 一等 → 特等
最上位が「特等床山」です。
床山は見習いから経験を重ね、仕事を覚えながら上の格へと進んでいきます。
「床山にも格付がある」というのは、大相撲初心者にとって少し意外な豆知識かもしれませんね。
床山は五等から特等まで格付がある
床山は五等から始まり、経験を重ねながら上の格へ進んでいきます。
五等の上に四等、三等、二等、一等があり、そのさらに上が特等です。
最上位の特等まで進むには、長い勤続年数や実績などが関係します。
つまり床山は、短期間で一通りの作業を覚えれば終わるような仕事ではありません。
何年も力士の髪に触れながら、さまざまな髪への対応方法や、美しい髷を手際よく作る技術を身につけていきます。
最上位の特等床山まで続く格付からも、床山が長い時間をかけて腕を磨いていく職人の世界であることが伝わってきます。
なお、格付や昇格に関する細かな規定は変更される可能性があります。
詳しい条件を確認したい場合は、日本相撲協会の最新情報を確認してください。
大銀杏を結える床山に「何等以上」という決まりはない
床山の格付について知ると、次に気になるのが「大銀杏は何等の床山から結えるの?」という点ではないでしょうか。
大銀杏は難しい髷なので、「一等や特等の床山でなければ担当できないのでは?」と思うかもしれません。
しかし、日本相撲協会が紹介している情報によると、「何等以上でなければ関取の大銀杏を結えない」という制度上の決まりはありません。
ここは、床山について調べるときに誤解しやすいポイントです。
もちろん、制度上の決まりがないからといって、大銀杏をすぐに結えるという意味ではありません。
大銀杏を美しく、しかも手際よく仕上げるには十分な経験と技術が求められます。
日本相撲協会の公式情報でも、大銀杏を結えるようになるまでには経験を積む必要があり、巡業などで大勢の力士を手際よく担当するには、さらに熟練が必要であることが紹介されています。
そのため、床山の格付と「大銀杏を結うための制度上の資格」は同じものではないと理解しておくとよいでしょう。
床山が使う道具とは?
床山が美しい髷を作るためには、職人としての技術だけでなく、さまざまな道具も欠かせません。
代表的なものには、
・ すき油(びん付け油)
・ 元結(もっとい)
・ 櫛
などがあります。
日本相撲協会が紹介している床山の道具にも、複数の櫛や元結、すき油などが見られます。
普段のヘアセットで使う道具とは異なる、大相撲ならではのものが使われているところも興味深いですね。
ここからは、それぞれがどんな役割を持っているのか見ていきましょう。
すき油(びん付け油)は髪をまとめるために使う
力士の髷を見ると、髪がきれいにまとまり、表面も整っていますよね。
その髪を整える際に使われるのが「すき油」です。
髪に油をなじませることで、髪をまとめやすくし、髷の形を整える際に使われます。
大相撲を間近で観戦したことがある方なら、力士が近くを通ったときに独特の香りを感じたことがあるかもしれません。
髷に使われるすき油の香りも、大相撲の雰囲気を感じさせるもののひとつです。
ただし、油を多く使えば髷がきれいになるという単純なものではありません。
髪の状態を見ながら油をなじませ、櫛を通し、形を作っていくところに床山の技術があります。
元結は髷を固定するための紐
髷を結う際に欠かせないもののひとつが「元結」です。
一般には「もとゆい」とも読まれる言葉ですが、相撲の世界では「もっとい」と呼ばれます。
元結は、まとめた髪を結んで固定するために使うものです。
普段のヘアアレンジではヘアゴムやヘアピンなどを使うことがありますが、力士の伝統的な髷では元結を使って髪を結びます。
力士は取組で激しく動くため、髷も形を整えてしっかりまとめておく必要があります。
普段はほとんど目立たない道具ですが、あの独特な髷を形作るうえで大切な存在です。
「元結=髷を結んで固定するもの」と覚えておけば、初心者でもイメージしやすいでしょう。
櫛などの道具にも床山の職人技が表れる
床山は櫛などの道具も使いながら、力士の髪を丁寧に整えます。
髪を梳く、油をなじませる、髪をまとめる、元結で固定する、そして髷の形を仕上げる。
こうした細かな作業が積み重なって、私たちがテレビや本場所で目にする美しい髷が完成します。
もちろん、同じ道具をそろえれば誰でも床山と同じように髷を作れるわけではありません。
たとえば櫛ひとつでも、髪への当て方や動かし方、力加減などによって仕上がりは変わります。
さらに力士によって髪質や毛量、長さが違うため、その人に合わせて細かく調整する必要があります。
道具を使いこなす技術そのものが床山の職人技なのです。
次に大銀杏を見る機会があったら、完成した形だけではなく、「櫛やすき油、元結などを使って床山が仕上げたものなんだ」と想像してみると、より興味深く感じられるでしょう。
床山になるにはどうすればいい?
床山の仕事を知ると、「どうすれば床山になれるの?」と気になる方もいるかもしれません。
床山は、一般的な美容室や理容室で経験を積むだけで就ける職業とは仕組みが異なります。
日本相撲協会に所属する床山として大相撲の世界に入り、現場で専門的な技術を学んでいく職人の仕事です。
採用条件や募集状況などは変更される可能性があります。
実際に床山を目指している場合は、日本相撲協会の公式サイトなどで最新の採用情報を確認してください。
この情報は変更される可能性があるため、公開前に公式サイトで最新情報を確認してください。
相撲界に入り先輩の技術を学びながら修業する
床山として仕事を始めても、すぐに難しい大銀杏を自在に結えるようになるわけではありません。
先輩の技術を見ながら仕事を覚え、実際に力士の髪を扱いながら経験を重ねていきます。
髷には伝統的な形がありますが、髪そのものは力士一人ひとり違います。
髪の量が多い場合、少ない場合、まだ十分な長さがない場合など、さまざまな状態に合わせて対応しなければなりません。
さらに、きれいに仕上げるだけでなく、多くの力士の髷を手際よく整える技術も求められます。
こうした技術は、説明を読んだだけですぐに身につくものではありません。
先輩から技を学び、何度も経験を重ねながら、自分の技術として身につけていく職人の世界です。
床山に五等から特等までの格付があることからも、長い時間をかけて技を磨いていく仕事であることがわかります。
力士とは違う形で大相撲を支える仕事
大相撲の主役として注目されるのは、やはり土俵で戦う力士です。
しかし、その舞台は力士だけで成り立っているわけではありません。
床山をはじめ、行司や呼出など、多くの人がそれぞれの役割を担うことで大相撲が成り立っています。
床山は土俵上で勝敗を競う仕事ではありませんが、力士が大相撲らしい姿で土俵に立つために欠かせない存在です。
さらに、伝統的な髷を結う技術を次の世代へ受け継いでいくという意味でも、大切な役割を担っています。
華やかな大銀杏を見たとき、その形を作った職人の存在まで思い浮かべてみると、大相撲の見え方が少し変わるかもしれません。
力士とは違う形で、大相撲の伝統を支えているのが床山なのです。
まとめ|床山は力士の髷を支える相撲界の職人

床山とは、力士の髪を結い、伝統的な髷を美しく整える専門職です。
普段のちょんまげから関取が結う大銀杏まで、力士一人ひとりの髪質や毛量、長さなどを見ながら仕上げています。
床山には、
五等 → 四等 → 三等 → 二等 → 一等 → 特等
という格付があり、最上位は特等床山です。
ただし、「何等以上でなければ関取の大銀杏を結えない」という制度上の決まりがあるわけではありません。
床山の格付と、大銀杏を担当するための制度上の資格は別のものとして考えるのがポイントです。
また、髷を結う際には、すき油や元結、櫛などの道具が使われています。
一見シンプルに見える髷にも、髪の状態を見極める力や道具を扱う技術、長年積み重ねてきた経験が詰まっています。
大相撲を見る機会があったら、取組だけではなく力士の髷にも少し注目してみてください。
美しく整えられた大銀杏を見ながら、その髷を仕上げた床山の仕事を想像すると、大相撲をこれまでとは少し違った角度から楽しめるのではないでしょうか。

